■一生の不覚■

「君のことが好きだ」




言われて当初。

唖然として御剣を見た。

そして僕はうかつにもそれを。

「友人として」君のことが「好き」だ。

と、勘違いした。



「うん、僕も好きだよ。御剣のこと」

成歩堂龍一、一世一代の失態。



御剣怜侍を、救いよう無いほど傷つけた。





*    *


「なるほどくん、それ、御剣検事の告白よ」
久々に真宵ちゃんに召喚された千尋さんにその言葉を「つきつけ」られて、僕は目を白黒させた。
仕事の合間にポツリと、数日前に御剣から言われた言葉を、なんでか千尋さんに話す羽目になった。
というのも、僕が「僕も好きだよ」と答えた時の御剣の表情が、明らかに悲しそうに、歪んだのが気になったからだったんだけれど。
「え、ちょ、待ってくださいよ!僕は男で御剣も男ですよ!幾らなんでもそんな!」
「いやいやいやいや」
千尋さんはわざと僕の口癖をまねて、ご丁寧に僕の方にポン、と手を載せにっこり笑った。
「おめでとうなるほどくん。春が来たわね」
「え、ええええ!!?」
チョットそれ待ってください!春って!なんなんですかー!
そう言おうとした瞬間、千尋さんに人差し指で口をふさがれた。
「きっと御剣検事、貴方に友達関係以上に見られて無いと思ってショックだったのよ。わかるわ〜彼の気持ち。大事にしてあげなさいよ、未来永劫、君の面倒見てくれそうな人、彼しかいないわ」
品のいい、それで居て何か謀略的な笑顔でそう続けると、千尋さんは僕の口から人差し指を離した。
「未来永劫って…な、なんでわかるんですか!」
「女の勘よ」
良く当たるんだから。
とまで付け足された。
僕は青くなって、大きなため息をついた。
「でも、親友を傷つけて放置しておくような人じゃないでしょう…なるほどくんは」
「う……。はい……」
僕はうなだれた。
確かにあの時の御剣の表情は、僕の脳裏にこびりついて離れない。
僕が彼の立場だったら、どうなんだろう。
やっぱり悲しいんではないか。
僕が勘違いで直ぐに答えを出したことも、彼は気がついていて。
それで、終わらせてくれていた。
苦しませている。
実感している。
とんでもないことをしてしまった。
千尋さんの言葉が重くのしかかった。
「……そんなに思いつめるなら、行って来たらどう?」
「え?」
「私がこんなこと言わなければ貴方も悩まなかったんだろうし…この仕事は私が片付けておくから。いってらっしゃい」
にっこりと微笑む千尋さんの表情には、ノーという言葉を寄せ付けない何かがあった。
「わ、かり…ました。じゃあ、お願いします」
「行ってらっしゃい、遅くなるようなら連絡入れてね」
――って事は暗に、帰ってくるなと言っているんだろうか、この人は。
そんな事を思いながら、僕はまず検事局に出向いた。


探し人は案外早く見つかるものだというけれど。
結局僕は検事局と警察署と裁判所、合計三箇所を四週位回る羽目になっていた。
最初に検事局で御剣は見つからず、次に行った警察署で糸鋸刑事に裁判所に行ったという情報を得て裁判所に行ったものの、既に検事局に向ったといわれ、後は順番が適度に変わりこの調子だ。
「な、ん、で、探してる時にかぎって都合よく居ないんだよあいつは!!」
もう何度目か数えても居ない裁判所の中から出てきた僕は、流石に苛立っていた。
いい加減耐えられなくなってきて、持っていた鞄を地面に投げつけようと振り上げ――
ため息をつきながら、やめた。
「鞄に八つ当たりしてもしょうがないや…」
そう言って振り返った瞬間。

「何かイライラしていることでもあるのかな、君は」
「――!!?」
目の前に探し物が転がってきた。
「み、つるぎ…ビックリしたぁぁーーーー…」
「ム。すまない、脅かす気は無かったんだが…」
ほんとかよ、と呟いて、僕は目の前の鬼検事にばれないようこっそり深呼吸した。
「あ、あのさ、ちょっと話がある、んだけど…」
「……」
御剣は押し黙って僕を見下ろすと、何か考えるように頭に手を当てて、それからこくりと頷いた。
「ここではなんだ。その…空いている控え室がひとつあったから、そこへ」
「うん、任せるよ」


何度も歩き回って疲れた僕は御剣に手を引かれて、覚えようという気の無い道を進んでいった。余り時間も経たず到着した部屋に入ると、御剣は僕にソファを勧め自分も向いに座ろうとした。
「待って御剣…」
「ム。何か?」
「鍵、閉めてもらえないか。大事な話だから、誰にも邪魔されたくない」
幸い裁判所の各部屋は、適度に防音が施されている。小さな声で話している分には外部から聞き耳を立てても聞こえないだろう。
「……ム、了解した」
一瞬御剣の表情が変わったのは、不安を感じているからだと思う。彼の気持ちを知ってしまった以上は、分からないはずの無い、彼の感情の起伏が、妙に、痛々しい。申し訳なく感じている自分が居る。
カチャリと鍵が掛かった。密室だ、僕にも彼にも、次にここを二人で出るまで逃げ場は無い。

「それで、話というのは?成歩堂」

僕は正直に、胸の内を話した。
「僕は君のことが好きなのか、よく解らないんだ」


一言で述べたその台詞は、確実に、御剣の表情に大きな影響を及ぼしていた。


覚悟はもう出来ている。





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何の覚悟ですか成歩堂君…ここまでひたすら何も考えませんでした。いきあたりばったり!