■新江戸剣団トノヒメW(ウイング)3■
〜というか既にこれミツナルなのか?〜
「あなたはこのあいだの…」
龍一の言葉に、怜侍がピクリと反応したが、何も言わなかった。後が恐いなと思いつつ、龍一は女性のそばに歩み寄る。
「ナルホドさん、決意は出来まして?この役、降りてくださらないかしら。そこのお二人もね」
「いや僕が良かったとしてもこの二人はきっと阻止すると思いますけど…それに、理由のわからない頼みごとは聞けませんよ」
「……」
白づくめの女性は一瞬だけ表情を変えた後またにっこりと笑って、龍一に詰め寄る。
「せっかく練習されているのに申し訳ないとは思っているんです。どうか聞いていただけないでしょうか…私、どうしてもこの劇、公演していただきたくないんです…そのためには私、貴方の言うことだって聞いて見せますわ」
「なっ…!ち、ちょっと待ってください!そんなに近づかないでーっ!!」
要するに、誘惑。
龍一に鼻先が触れ合わんばかりに詰め寄る女性に、龍一はあわててその肩に手を置き引っぺがそうとする。
確かにこの女性、美人ではあるしそれなりに魅力も無いとは言いがたい。だが…
はっきり言って背後で見守っている二人の視線がかなり痛い痛すぎる。
「まままま待って!お嬢さん!ホントに!早まっちゃ駄目ですって、一体この公演何がそんなにいけないんですか!」
「……っ、それは…っ」
龍一の必死の抵抗と質問に、女性は急に俯いて床にくずおれた。
「――那津子!一体こんなところで何しているの!?」
おろおろとするばかりの龍一の背後から、エミの声が聞こえた。
「――お、お母様!?」
『!?』
「あ、やっぱご家族だったんですか?」
『って気付いてたの!?』
驚く怜侍と政志とは対照的に、ナチュラルに尋ねる龍一に、全員が突っ込んだ。
「えっ?だって目元とか輪郭とかよく似てると思ったんだけど…」
「不思議だわ…今まで誰も私とお母様が家族だって気がつかなかったくらい、似ていないはずなのに…」
「いや似てるから…寧ろそれ既に顔で個別認識されて無いんじゃ…」
「それはともかく、那津子っ!」
龍一のツッコミは無視された。
エミは那津子と呼んだ娘に詰め寄り、壁まで追い詰めた。
「は、はいっお母様なんでしょうっ」
「どういうつもりなの?成歩堂君に色目使って何をしようって言うの!」
「そんなお母様、色目なんて…それに、何のことを言ってるのか」
「しらばっくれんじゃないよ!公演を中止させようなんてまだ企んでるのかい!?」
「……」
図星を突かれて俯いた那津子に、エミはため息をついた。
「山下殿…、ここでは何だと思われる、別の場所で話したほうが良いと思うのだが…」
「……そう、ですわね。では、校長室に行く事にしましょう」
怜侍の言葉に、エミも我に帰り頷いた。
* *
校長室に沈黙が訪れた。
エミと奈津子は正面で向き合いソファに座り、龍一はというと怜侍と政志と一緒にその側の椅子に腰掛けて様子を伺っている。
既にこの雰囲気は、約一時間後にトノヒメWを公演するノリでは無い。
「……那津子」
「…………」
「答えて。正直に。
――なんでこの公演がそんなに嫌なの?」
「……」
「答えて!!」
バン!と机が割れんばかりに叩かれた。この老婆のどこにそんな力があるのかは計り知れないが、これならたいがいの者は震え上がること間違い無しの迫力である。
しかし那津子はというと、多少唇を噛んでいるものの、微動だにしていない。
流石はこの親あってこの娘、である。
「答えないなら別にいいわ…公演が終わるまでこの部屋に居てもらうだけですからね、見張りと」
そんな事していいのか?と一瞬突っ込みそうになった龍一だが、ぐっと堪えた。
「……嫌なのよ。とにかく」
「――どうして!貴女だって子供たちと一緒にいつもトノサマン見て、笑ってたじゃない。幸せそうに…」
『えぇっ!?』
「どうしてそこで驚くのよっ!失敬ね!」
余りにも意外なエミの発言に驚いた三人に、那津子のほうが抗議して、それから、慌てて口を押さえた。
「那津子さん…本当はトノサマンもヒメサマンも…好きなんですよね?」
「……」
「嘘なんか、考えたって駄目ですよ。あなたのその目は図星だって言ってる」
「……っ!
――ええ…そう、よっ!好きよ。大好きよ。そりゃあもう誰よりも好きだって自信があるわよ!」
何故かぽろぽろと涙を流して、那津子は告白した。
「では何故、キミは公演を邪魔しようと考えたのだ?好きなものなら、逆に自分が参加することも考えただろうに」
「…だよなぁー。それだけ好きなら何でまた」
依然ぽろぽろと涙を流す那津子が、ゆっくりと呟き始めた。
「私の好きは…大人として、トノサマンやヒメサマンが現実ではどんな物なのか知っている上での、『好き』なのよ…でも。
子供たちは、どう?
きっと…特に、一年生とか、二年生とか――
トノサマンの中に普通の人が居るってことさえ……、知らない子がいるんじゃないか…って思うのよ」
「……那津子?」
「――那津子さん、まさか貴女……」
龍一の言葉を遮り、那津子は続けた。
「普通のデパートや遊園地の公演なら、まだ警備員とかがいるからいいわ。だけど、学校には警備員はいないし、それに、裏口から簡単に楽屋に入れる…子供たちがもし、楽屋に忍び込んだりしたらって思うと私…!
だから、だからお母様の回りにいる方全員に手を回して…ううっ」
(いや、最近の子供結構シビアだと思うよ…)
冷や汗を流しつつ怜侍を見れば、あさっての方向に俯いて肩を震わせ、政志を見ると天井に顔を向け号泣している。
エミを見ればハンカチを出して目尻に浮かんだ涙を拭っているしで、龍一は後頭部に痛みを覚えた。眩暈がしそうだ。
「あのー、僕から一つ提案が…」
状況を打開しなければ、一人何の感動すら覚えていない自分が袋の鼠になりそうな気がして、龍一は頭痛を気のせいに仕立て上げて挙手した。
とりあえず涙ぐんだ振りをしながら、ニコッと笑う。
「この学校の先生たちは、公演中何の仕事も無いんですよね?」
「ええ、そうですけれど…」
「だったら…彼らに警備を頼むことは出来ないんでしょうか。
警備によって公演が見れないという人には、公演を録画したビデオをダビングして差し上げればいいわけですし」
「……あぁっ!そんな方法が…!」
(いや、気付けよ!)
龍一が思い切り突っ込むのを我慢したのは内緒の話である。
「しかし職員の皆さんは、快く了承してくださるかしら…」
「そうね、皆トノサマン大好きだものねぇ」
(そこまでこの学校トノサマンに支配されてんのー!!?)
今度は眩暈が強く押し寄せてきて、龍一は危うく倒れるのを必死で堪えた。
――と。
『心配しないで下さいこうちょぉぉぉぉ!!!』
バタン!!
突如校長室になだれ込んできた大勢の人間に、龍一は勿論、その場に居た全員が固まった。
「み…みなさん、聞いていらっしゃったんですか?」
いち早く立ち直った那津子が、雪崩れ込んできた団体に尋ねた。どうやら、教職員らしいが。
「ハイ!そろそろ生徒が登校してくるので、いつ体育館を開ければいいか聞こうと思ったところ…お話しが聞こえてきたものでして。
われわれ教師一同、責任を持って警備員させていただこうと思っております!!」
「み、みんな…」
龍一は再び周りを見渡した。先ほど以上に号泣している政志。余り見たくない気がするが涙で目の潤んだ怜侍。歓喜の笑顔を見せるエミ。恐らく首にあるパールのネックレスよりも大粒の涙をボロボロとこぼす那津子。そして政志顔負けの涙を見せる教師陣。
今度こそ本気でやり過ごせない頭痛がしてきた龍一は、思わずその場に頭を抱えてうずくまった。
そして余談だが、この日のトノヒメWの公演は大盛況に終わったという。
>>END
こんな小学校嫌だ。
でも、月並みな小学校よりはいい。
人情溢れる結末になってればいいな…エヘ。
ページのどこかに、おとなむけミツナルえっちぃSSが隠されてます、よ…。
てか、これ半分オリジナルはいりまくってるよな…・・・