■新江戸剣団トノヒメW(ウイング)2■
〜ものすごくアホくさいタイトルだと自分でも思ってますどうか突っ込まないで!〜




「どうした?成歩堂」
ぶつかった相手は怜侍だった。いつものひらひらとしたフリルタイや赤いスーツは面影すらなく、龍一と同じシャツにジャージといういでたちだ。
「あ、いや。なんでも――」
「……」
皆まで言う前に怜侍にじっと凝視され言葉に詰まった。
「顔が赤い。それに、香水の匂いもある…今まで誰と?」
流石は鬼検事、鋭い洞察力である。
「その……女の人が」
「……」
「み、御剣?」
妙にしかめっ面になりはじめる怜侍に、龍一は思わず後退りする。
「ぼ…僕何もやってないよ。本当に。確かに香水がうつる位近づいたけどでも拒否したし大体そんな事まったくなかったから!」
「……キミは本当に素直だな」
くすっと笑うと、怜侍は龍一の顔を両手で包み込み、深くくちづけた。
「……ッ!」
覚悟していても慣れない作業に、龍一は硬く目を閉じた。左頬に当てられていた怜侍の手が背中に回ってきて、しっかりと抱き寄せられる。
「…ッン、待って御剣…っ!ここ小学校…っ」
幸い冬休みという大人もうらやむ時期のため、校内に生徒は一人も居ないのだが、流石にこんな場所で、しかも背後の体育館には沢山の人が舞台練習をしている。もう数分もしたら帰ってこない自分たちを心配して、誰かが見に来ることだって考えられる。
流石にそんな事態は、避けたい。
「ではこの続きは今夜にでも」
「馬鹿。」
一言であしらい、先に戻ろうとすると、シャツの首を引っ張られ抱きすくめられた。
「すまないが今日は君に拒む権利は与えないつもりだと思ってくれ」
――本気だコイツ…。
龍一は本気で身の危険を感じた。


『――お願いです。今すぐこの役から…降りてください、お願いします…!』

(何故あの人は僕にそんな事を言ったんだろう。それに、あの顔――もっと老けたらきっと、エミさんにそっくりだ)
二度目の休憩で、先ほどの女性の言葉を思い出した龍一は、舞台上でマコや由美子に指示を出す真宵とエミを見た。やはりどこと無くあの女性は、エミの親戚か何かのようにも見える。
しかし龍一にはかねてからの疑問がもう一つあった。
「なあ御剣」
「なんだ?」
「山下校長ってこのトノサマン着ぐるみとか、どこで手に入れたのかな?」
そう。エミ本人からにっこりと押し渡されたこの着ぐるみは、一体どこで手に入れたのか…
エミが手作りしたという説は誰がなんと言おうと全否定する勢いだが、特注という話なら納得してもいい。しかし、配役が決まる前に用意していたとは考えにくい。
「彼女、僕らにこの役をやると決めさせたときはっきり言ったじゃない、『じゃあこれからすぐに衣装を手配しなくちゃ』って」
「ム。確かにそうだな」
怜侍もそこはきっちり覚えているようで、漸く考え始めた。
「っていうかさ、考えてみればちょっとおかしいよね。僕らが引き受けるまで学校の先生も山下校長の友達も、誰一人として出演を断ってるんだよ。着ぐるみはなんとでも説明がつきそうだけど…」
「……確かに、キミの言うとおり、何かあるのかもしれないな……しかし」
怜侍は小さく笑い、不思議そうな龍一にだけ聞こえるように続きを言った。
「そのおかげで私たちに役が回ってきたのだからこれはこれでいい」
「……おいおいおいおい」
だめだ。僕ついていけそうも無いこの人たちに。
弁護士成歩堂龍一はこの日、人生で一番の脱力感を味わった。


*    *


一週間後。
冬休みも明けるその日、体育館内ではバタバタバタバタ、いつにも増して出演者以外の人間の残像が見えるほど、慌しく人が動き回っていた。
「なんか…スゴイね、この熱気」
「そりゃあ、公演開始まで生徒にばれない様にしねーとならないんだろ?そりゃ熱いぜ!」
「皆張り切っているのだろう…冬休み明けで学校に行くのがだるい小学生を喜ばせるためにな」
「てことはよぉオイ、今日ズル休みした生徒、ぜってー損ってこったよな!」
ぷくくくと笑う政志に怜侍と二人で白い目を向け、龍一はふと、一週間前自分に役を降りるよう頼んできた女性を思い出した。
(あんなに熱心に頼んでおいて、あれからいちども姿を現さなかったよな……諦めた、のかな?)
「開演まであと一時間か…無事に終わるといいけど」
「ナルホドォ!何エンギ悪いこと言ってんだよぅぉ!?この日のために俺たち、アッツーーーーイ特訓を重ねてきたんじゃないか…!んなっ!」
熱く情熱を語る政志の迫力に押されつつ、龍一は後退する。
「いや、別に僕は…」
「何を言ってる成歩堂。私たちの特訓は素晴らしかったではないか。不安なのは私も同じだがきっとそのような壁、開演してしまえば――」
更に横から怜侍に真顔で詰め寄られ、龍一は心底狼狽してしまった。こいつ等話が通じない。
――と思った矢先、背後から声がした。

「――いえ、今日の公演は中止させていただくことにしますわ」


振り返った先にいたのは、日傘を差して白いスーツに身を包んだ、――龍一が一週間前に会った女性だった。




>>NEXT

ハイ次ハイ次。
今回は少し短めです。苅田さんはいっつもお話の長さがちぐはぐです。
このお話しではミッタンもナルホド君も恋人同士でラブラブな設定なんです。パラレルーだしね!
いつか完全パラレルで長編書きたいなぁ。とか思いつつ。うふ。