■新江戸剣団トノヒメW(ウイング)■
〜おなじみトノサマンの音楽を適所で脳内演奏しながらお読み下さい〜
ぽぽぽんぽんぽんぽんぽんぽん…
間の抜けた音楽が鳴り響く中、やけにピンクピンクした着ぐるみを着た剣士がこれまた茶色茶色した着ぐるみに身を包んだ一見丸腰の敵に向っている。舞台セットは…「越後屋」。
『ついに追い詰めたわよ、エチゴヤーン!アクダイジーンはどこ!』
『うぬうっ!こうなってはしかたが無い…我が必殺の奥義…”菓子折りでございます!!”』
どこから出したんだ菓子折り、パカッと開けられたフタから湧き出た煙にヒメサマンがむせた(というか着ぐるみ辛そうだなぁ…)。
『なにぃっ!?』
『はははは油断したなヒメサマン!このアクダイジーン、おヌシなどにやすやすと倒されぐふぁ!?』
「大臣アドリブ多すぎ!カットカット!」
捏造キャラ「アクダイジーン」は突如現れた霊媒師によって倒された。
……。
成歩堂法律事務所からそう遠くない、小学校の体育館で。
なぜかヒメサマンの着ぐるみを着せられ部隊練習に励んでいた成歩堂龍一は大きな大きなため息をついた。
「真宵ちゃん…なんでこんな『オシゴト』引き受けちゃったの…?」
「ちっがぁーう!今はカ・ン・ト・ク!監督とお呼びっ!なんちゃって。」
「じゃあ監督。監督は何でこんな仕事を引き受けたんですかー」
「面白そうだからー」
……。
「僕、明日も法廷だから今日はこれで」
「ままま待って待って!お願い待って!ちゃんとワケは話したよねぇっ、ねっ!?」
ヒメサマンの中から出ようとした龍一を監督…もとい、綾里真宵が一生懸命引きとめた。
「はぁ…なんでこうなっちゃうんだろう…」
別に明日は法廷も無いことを真宵は知っている。というか強制的にそうなったとしか言いようが無い。
「いつから僕の事務所は『成歩堂なんでも相談所』になったのかなぁ?」
「だってさぁ、依頼料もくれるって言うんだし、いいじゃない。結構お得だよ」
「いや、そんな問題じゃ…」
ないんだけど…と、龍一は三日ほど前のことを思い出した。
* * 数日前――
「あーあ、仕事みつから無いかなぁー」
「そんな簡単にいくものじゃないと思うけど…とにかく、依頼がなきゃ即廃業だからね、なんとかしないと」
いつものように仕事探しに余念が無い龍一と真宵は、結局今日も収穫が無くひょうたん湖公園で暇をもてあましていた。
「平和なのはいいことだけれど…」
仕事が無いというのは普通にヤバイだろ、と胸中でのみつっこんで、龍一は公園の隅にあるベンチでコーヒーをあけ、大きな大きなため息をついた。
真宵はのんきに鳩に餌をやっている。
「……ん?」
不意に、頭上に影が落ちて顔を上げると、見覚えのある赤いスーツ。
「御剣?こんなところで何してるんだ?」
「ム。キミ達がここに来るのを見かけたのでな…」
そう答えて、御剣怜侍は龍一の隣に腰掛けた。
「暇なわけじゃないんだろ、御剣。仕事はいいの?」
「証拠探しは糸鋸刑事に任せてある。というか任せろといわれて断るわけにも行かないからな…」
上司思いの糸鋸刑事がなんと言って怜侍を警視庁から追い出したのか、良く解る。龍一はその光景が嫌でも頭に浮かんで、ぷっと吹き出した。
「何を笑っている?」
訝る怜侍に、龍一はなんでもないと返して、それでも笑っていた。
「ム。何でもないのなら何故笑う…」
微妙にしかめっ面を困惑に歪めて、怜侍はかぶりを振る。
――と。
「わー!やめてっ!やめてくださぁぁいおばさんっ!」
「嫌!離して!お願いだから死なせてぇぇ!!」
『……』
「なあ、成歩堂…あの声に聞き覚えは無いか」
「うーん、確実に、一人は聞き覚えがある声だよね」
「いや、聞きなれている…」
「寧ろ良く知ってる人物の声だよね…」
『……』
ものすごく嫌そうな顔を二人で見合わせて、成歩堂龍一と御剣怜侍は、綾里真宵ともう一人、謎の人物の声がしたほうに走り出した。
* *
「成歩堂君お疲れさまぁ♥随分ヒメサマン役板に入ってきたわねぇ〜♥」
「…あ、はあ。どうも」
「もう私ねぇ、あなたを見たときから背丈といいヒメサマン役は貴方しかいないと思ってたのよ!本当に、ありがとうねぇ、こんなおばあちゃんの頼み聞いてくれて…」
うっうっとハンカチを出して涙ぐむこの初老の女性は、『依頼人』その人である。
――山下エミ。
数日前ひょうたん湖公園で湖に飛び込み自殺を図ろうとして、第一発見者である真宵に引き止められ現在を生きる、元気な小学校長である。
そして無類のトノサマンシリーズ好きでもあり、自殺を図った理由が自分のオリジナル・シナリオで子供たちを喜ばせる為役者探しをしたものの全く見つからず…とかなんとか。
結局助けに入った真宵と龍一たちに目をつけて、色のついた依頼料で無理やり役者にしてしまったはた迷惑なばあさんなのである。
「ほんとにねぇ…生きてるうちに夢が叶うとは思いもしなかったよ私は…」
そんなエミ校長の後ろでピンク色の薔薇が咲いておなじみのメロディーが流れ出す…
『衝撃的出会いを果たしたトノサマンとヒメサマンが強力なタッグを組んだ!
その名も「新江戸剣団トノヒメW(ウイング)」!
しかしトノサマンはお国のもとに働く検事、ヒメサマンはしがない弁護士。二人を引き裂く悪の申し子アクダイカーンの次なる魔の手が迫りくる…!』
なんていう、CMナレーションまで流れ始め――
「待った!!」
「あらなぁに?」
「何でいつの間にトノサマンが検事でヒメサマンが弁護士になってんですか!!」
龍一の言おうとしていた台詞を真宵が奪う。
「えー、だって成歩堂君は弁護士じゃない?で、トノサマン役の御剣さんは検事さんなのでしょう?だったらやっぱりここはオリジナル設定として…」
「いりませんそんなパラレル設定どこの腐女子が考えたんですか!」
「真宵ちゃん腐女子って何?」
龍一の質問はスルーされた。
「いいじゃないの、生徒たちも楽しみにしてるのよ」
「……」
(どうやらここ数日で、真宵ちゃんは「生徒たち」って言葉に弱くなったみたいだな…)
こっそり胸中で突っ込むが、言葉には出さない。面倒なことになるから。
「ところで御剣さんはどうなさったのかしら…」
エミがそんな言葉を発したのを聞いて、怜侍が異様なはしゃぎっぷりでトノサマン役を引き受けてしまったことを思い出した。
(一番忙しい奴がこれ以上忙しくなってどうするんだよ…)
そんな事を言ってもきっと聞かない事はわかっているのだが。
ノリでアクダイジーン役を買って出た矢張政志やエチゴヤーン役にエミがスカウトしてきた大沢木ナツミやらで体育館はとても騒がしく、さらにここに怜侍が来たらもっとうるさくなること請け合いである。
「それにしてもうちの先生たちも今までスカウトした人たちも、なぁーんで断ったんでしょうねぇ…成歩堂君が見つからなかったら私ホントに湖の底に居たわ」
シャレにならないことをさっぱり言うばあさんだ。
「あ、ははは…あの…山下さん、僕ちょっと外に出てきます。」
外の空気が吸いたいからと一言添えて、龍一は体育館から「退避」した。
皆どうも悪い人間ではないのだが、どうにもあの雰囲気はとっつきにくい感がある。
体育館の外の階段で、Tシャツにジャージという体育教師ばりの格好でくつろいでいると、校舎から誰か人が出てきた。
「あの……」
白いロングのワンピースに、麦藁帽子。日傘まで真っ白に統一している上品そうな女性は、どこかエミに面影が似ている。
「成歩堂龍一さんって、あなたですか?」
「え? あ、はい。そうですけど」
話しかけられてつい頭に血が上った。女性がかなりの美人であることもあるのだが、返事をした瞬間、彼女が詰め寄ってきた所為もある。
「――お願いです。今すぐこの役から…降りてください、お願いします…!」
「――え?あの、あなたは一体――?」
「時間が無いんです。お願い、ハイって答えて!」
「うわっそんなに詰め寄らないで!何があったんですか事情を話してください!って言うか順序間違ってますよ貴女!」
鼻先が触れ合わんばかりに詰め寄られて、龍一は本能的に頬を赤らめ女性を押し戻そうとした。
――と。
『成歩堂くーん、御剣さんが来たからリハーサル、はじめるわよー』
体育館の中からエミが呼びかけた瞬間、龍一の耳元で舌打ちが聞こえた。
「えっ?」
「――仕方がありません…次に会うときまでに、考えておいてください。それじゃ」
それだけ呟いて、女性は龍一に表情を見られないよう踵を返し走り去った。
「……なんなんだ?」
ボソリと呟き振り返ると、どすんと人にぶつかった。
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長…!ありえないくらい長いよ一ページが!久々にこんな長いの書いたよ。
ちなみにエミばあちゃんって私の亡き祖母です。凄く可愛くて気の強いおばあちゃんだったんですが、この作中のエミさんとは全く別人です。こんなお茶目じゃありません。
凄く真面目に生きて、真面目すぎるくらいだった人です。畑仕事が大好きで、それをずっと生きがいにして、いつもおいしいご飯を食べさせてくれました。
最後のときにそばに居てやれなくて、本当に悲しかったです。
学校で単位が取れなくなってもいいから、祖父の時は絶対早いうちに帰郷したいと思いながら、別次元の「山下エミ」を描いてました。
はい。しんみりしちゃってスイマセン。こっからは腐女子コーナー。
女の人に詰め寄られて普通に顔を赤くする成歩堂君とか好きです。
それでもミッタンが好きな成歩堂君が好きです。
っていうか女の人を退けられる一番の理由がミッタンだったりしたら萌えです。
ちなみに。このお話しはこっそり別ジャンルで活動している蒼ちゃんに捧げますv
っていうか、メールでこのネタを是非読みたい!と言ってくれた貴女が大好きです。愛してます(告白)。
何気に続き物ですがノリノリで書き上げる気満満満!なので(笑)、ドウゾお付き合いくださいませv
ちなみに次はのっけからラブラブなミツナルで始まるよてひ。
おまけ
〜トノヒメW(ウイング)プチ資料〜
CAST
トノサマン:御剣怜侍
ヒメサマン:成歩堂龍一
エチゴヤーン:大沢木ナツミ
アクダイジーン:矢張政志
アクダイカーン:糸鋸圭介
STAFF
脚本:山下エミ
監督:綾里真宵
AD・カメラ・大道具:須々木マコ、間宮由美子(英都撮影所所属)
STORY
子江戸で活躍しているヒメサマンの噂を聞きつけたトノサマン。新たなる宿敵アクダイジーンとその手下エチゴヤーンによってヒメサマンに危機が迫ったことを察知し駆けつけ、ヒメサマン絶体絶命のピンチを救う。
お互いの噂を知っていた二人は、アクダイジーンとアクダイカーンが手を組んでいることを知り協力し合うことに。それによって生まれたのが「新江戸剣団とのヒメW」だった…
スイマセン。パラレルすぎます。
つか、こんな設定を考え付くエミ校長ってどんなおばあちゃんなんだよ(笑)。