■雪■


さくさく、さくさく。

足元でそんな音をたてる雪と格闘しつつ、成歩堂龍一は自分の事務所までの道をひたすら、歩いていた。
息を吐くたびに、目の前が白くかすむ。


もう直ぐ、年が明ける。
こんな大雪が降るなんて…とぶつぶつと呟くが、東北にくれべればこんな雪、小降り以下である。
事務所に行くまでにタクシーに乗ろうとしたものの、道は渋滞。歩いたほうが早いとすぐに見切りをつけて、裁判所からここまでをひたすら歩いてきたのだった。
「成歩堂」
雪に靴を埋めては抜き、埋めては抜き。
そうやって暫く進んでいると、不意に背後から聞きなれた声が聞こえた。
「御剣?」
龍一と同じく雪に苦戦しながらも、そのわりにはすばやく近づいてきた真紅のロングコートの男――御剣怜侍は、龍一に追いつきその隣を占領した。

「凄い雪だね」
「そうだな」

共に肩を並べて、成歩堂法律事務所への道を歩く。
はじめのうちは二人とも違和感を感じていたはずがもう、この光景も”いつものこと”だった。
龍一は良く喋るタイプだが、怜侍は口数が少ない。
そのため話しかけるのは大抵龍一なのだが、怜侍も人と会話することが嫌いというわけでは無いので、これはこれで、とてもバランスの取れた関係のようだ。
しかしこう寒いと、どうにもお喋りな龍一でも口数が少なくなる。普段では考え付かないほど会話の無い帰路に物足りなさを感じた龍一は、ひょうたん湖公園の目の前で思わず足を止めた。
公園の中では子供が雪合戦をして遊んでいる。
「どうした?成歩堂?」
怜侍が振り返った瞬間に龍一はその手をつかんで、公園の中に引きずり込んだ。
「御剣、せっかく雪が降ってるんだし雪合戦やろ」
「な、なんだと?」
唐突な龍一の提案に、怜侍は瞳をしばたいて龍一の腕を引っ張り返した。
「寒くて僕も御剣も全然喋れないだろ?だからちょっと運動してあったまろうよ」
沈黙という言葉の似合わない龍一らしい、怜侍はふ、と柄にもなく笑って、龍一に導かれるまま公園に入った。




数時間後。



「ご、ごめんって。な?」
「……」
肩にかかったおびただしいくらいの雪をはたきながらも、怜侍は龍一の謝罪に答えることなく隣を歩いていた。無表情ここに極まれり、どれだけ怒っているのかそれともからかわれているだけなのか。龍一には判別がつかないために、おろおろとするしかない。
要するに、怜侍が雪合戦の際に無様に顔面に雪球をくらった程度のことなのだが。
ついつい笑った後に龍一は激しく後悔せざるを得なかった。
「……み、つるぎ?」
何も答えない、こちらを見ようともしない怜侍に、不安も最高潮だ。
程なくしてたどり着いた成歩堂法律事務所の前で、二人は立ち止まった。
「邪魔させてもらうぞ」
「…えっ、あ、うん、どうぞ」
生返事でOKを出して、二人で事務所に入る。
なんだかんだと怜侍が事務所にやってくるおかげでこの事務所には怜侍の好きな紅茶が常備されるようになっていた。
「えっと…御剣、怒ってないの?」
もう慣れた手つきで淹れた紅茶をテーブルにおいて、向かいのソファに座って怜侍を見つめる。不安を隠すことは出来ずに。

――そもそもなんで、御剣が怒ってるってだけで不安にならないといけないんだよ!

そう疑問に感じながらもぐるぐると、思考は怜侍のことばかりを考える。目の前に居るというのに手を伸ばしても届かないように思えた。ため息をついて何も答えない怜侍の隣に移動する。
一言も喋ることなく、怜侍は龍一の座る場所を空けた。
「――怒っているかどうか…君にはどう見えるのかな?」
「は?」
意地の悪い、しかし嫌悪感を覚えないそんな笑みで見つめられた。理解できないと思った、こいつの思考回路は。
「……どうなんだ?」
答えを求めてくる怜侍に一瞬の沈黙の後答えようとした。だけれど答えるのがなんだか癪な気がして、龍一は怜侍の求める答えでは無い事を、答えた。
「どう見てると思う?」
「…」

案の定怜侍は意外そうな表情を作った。
今度は此方が困らせる番である。
「雪」
「?」
「雪が止むまでに答えなかったら、僕も教えてあげないから」

ぼそりと呟いて、龍一は満面の笑みを作った。


えっとスイマセン中途半端に終わらせたのには続きがあるからという理由がありまして…ハイ。
とりあえず次は年越し直後のお話しでもと…!(えらく珍しくタイムリーな話ばっかり書くね…ユウさんってば…)